を持った羊 序章 超えられぬ壁

 所詮しよせんこの世に神も悪魔も存在などしない。
 故に人間の敵も味方も人間だけだ――
 所詮神も悪魔もすべて人間のつくり出したモノ。
 ゆえに人間にこわせぬモノなどりはしない――
 この絶対矛盾パラドックスが持論だった。
 そしてそれが今まで自分を支えてきた。
 しかし、る日を境にそれは根底から揺るがされ、否定される。
 それも、自分がこの世で最も愛しく想う相手によって、いとも簡単に――
 この世は光と闇、すなわち善と悪に分かれており、その狭間はざまで僕等は揺れ動いている。
 善にとらわれず、悪にひるまず、ただ只管ひたすら善悪の境界線を行き来している。
 時としてこの相対する二極に近付くコトはあれ、完全に至るコトは無い。
 決して――
 そして、行動の過程も結果も又しかりだ。
 しかし、彼女は大変稀有けうな結果をもたらすコトになる。
 その行動の過程はあからさまな悪意にいざなわれた善行であり、
 その行動の結果は眼に見えない善意にみちびかれた悪行なのである。
 もつとも、そのコトについて彼女にけば、こう答えるであろう。
 ――やりたいからやるの。
 そして彼女をる者から見れば、彼女は前代未聞の偉業を成し遂げた善人であり、
 同時に彼女を識らぬ者から見れば、彼女は前人未到の境地に達した悪人なのである。
 完全なる二面性――この絶対矛盾、絶対不可能を彼女は成しげた。
 しかし、それはまだ先のコト。
 過去あってこそ現在があるように、現在無くして未来は語れない。
 これから話す彼女を巡る事件は、多分、あの日から始まっていたのだと思う。
 あれは、そう――僕が生まれて初めて冒険をした日のコトだ。
 あざなわれし運命の中、僕等は出逢った。
 遥かなる理想ニプラサルトラを叶えんが為に――

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